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有機農業での乾田直播の取り組み

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.64

2025年12月 業務執行理事 南埜 幸信

先日、北海道の当麻グリーンライフの担当者より、今年初めて有機農業での乾田直播栽培に成功し、収穫も終わり、一部のお客さん向けに出荷も開始したという連絡をいただいた。まず難しい技術に取り組み一定の成果を上げられたことに、敬意を表したい。
乾田直播(かんでんちょくは、かんでんちょくはん)とは、畑のように乾いた状態の水田に直接種もみを播き、苗が育ってから水田にする栽培方法である。この方法の主なメリットは、田植えや代かきの工程が不要なため、省力化や作業の効率化が図れることだ。特に労働力不足が深刻な大規模な水稲栽培に適しているといわれている。一方デメリットとしては、雑草対策や初期生育の確保が重要になる。
◇乾田直播の特徴とメリット
➀省力化・効率化: 育苗や田植え作業を省くことができ、作業負担や時間を大幅に削減できる。
➁春先の代かき作業が不要なため、労働力のピークを分散させることができる。
➂大規模栽培への適合性: スマート農機との相性が良く、作業の効率化が図れるため、大規模な圃場での栽培に適している。
➃作業適期の拡大: 畑状態の田に種をまくため、用水が通水する前から播種作業ができるので、湛水直播に比べて播種できる期間が長くなる。
➄品質への影響: 乾いた状態の土で作業するため、土壌の物理性や排水性が改善され、大豆や麦との輪作がしやすくなる効果がある。
◇デメリットと注意点
➀雑草管理: 代かきをしないため雑草が発生しやすく、適切な除草剤の選択と散布タイミングが重要。従来は除草剤抜きの栽培が難しいといわれ、有機栽培での取り組みは不可能と指摘されてきた。
➁初期生育の不安定さ: 播種後の砕土、鎮圧、覆土などの下準備が重要で、これらが不十分だと出芽や苗立ちが不安定になりやすい。
➂鳥害・風食: 鳥に食べられたり、風で土が飛ばされたりするリスクがある。播種後に鎮圧や覆土で対策をする必要がある。
➃肥培管理: 代かきをしない分、土壌中の養分が少なくなるため、移植栽培よりも多くの肥料が必要になる。特に初期生育を確保するために、緩行性肥料を適切に施用することが重要。
以上のように取り組みについては様々な検証と議論が進められてきた。
実は過去1920年代、北海道では水稲栽培面積の約80%を直播栽培が占めるという黄金期があった。その背景には、人手がかからず、当時の水稲移植より安定的であったことや、手蒔きの約10倍以上の能率がある、タコ足播種機が普及したことなどがある。水田が増え、大面積で人手の少ない北海道にとって、当時から直播の必要性が認められていたことが分かる歴史である。
しかし1930年代前半、立て続けに冷害に見舞われ、直播栽培は生育遅延、稔実不良のため大きな被害を受け、直播栽培は一時ほとんど見られなくなり、現在のような育苗ハウスで苗を大きくして移植する栽培方法が主流となったのだ。
しかし、北海道のような大規模での稲作については、省力化技術というのは、慢性的な人手不足に悩まされる日本農業の環境下では、解決しなければならない優先順位の高い取り組みであり、ましてや地球温暖化のなかでは、北海道でも冷害というリスクは縮小されてきたことは間違いない環境変化であることから、近年乾田直播は再度注目される技術となり、加えて、早生・大粒・多収で、直播の収量の安定に貢献し、直播栽培の原点となる、「ほしまる」「大地の星」といった、対応するコメの品種改良が進んだことも、その拡大機運を後押ししている。
そこで有機栽培での取り組みということだが、やはり除草剤が前提の技術といわれてきたように、有機農業での初期除草をどうするかということが最重要の課題である。これについて、今年、当麻グリーンライフからは、解決への糸口を見つけたとの報告を受けた。ぜひ教えてほしいとお願いしたら、快く受けていただいたことに、この上ない喜びを感じている。詳しい報告はレクチャー受けたあとに報告をさせていただくことにしたいと考えているが、日本の稲作の技術革命をもたらすかもしれない取り組みに向き合えることだけでも、幸せを感じている。

次号に続く

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