
再生2期作へのチャレンジ~加工用の有機米の確保のために~
みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.42
2025年6月 業務執行理事 南埜 幸信
米の再生2期作については、以前の号でも少しご紹介したが、今回、この技術の研究の日本の第一人者である農研機構中日本研究センターの中野先生のところに生産者の佐藤さんとお伺いして、研究者としての現状の課題と今後の展開ということで、お話を伺うことができたので、皆様にも報告させていただきたい。
まず、中野先生が再生2期作の研究に取り組もうとされたきっかけが、コメの白濁等、猛暑の悪影響が日本のコメ作りにデメリットをもたらすという警告ではなく、むしろ温度が高くなったことをポジティブに捉え、地球温暖化をチャンスにできるコメづくりはできないのかということだったようです。
国際農林水産研究センターのレポート「地球温暖化で四季の長さが変わる」の中でも、1952年から2011年までの北半球における四季の長さと開始日の変化に関するデータを用い、気候モデルに基づいて将来四季がどのようにシフトするかについて分析したものがある。この分析の結果、1952年から2011年の間、夏は78日から95日へ長くなったのに対し、冬は76日から73日に縮小した。また春と秋は、それぞれ124日から115日、87日から82日と短くなった。この結果、春と夏は早めに始まり、秋と冬は遅く始まるようになっているという傾向が顕著になってきているということだ。特に地球規模でいうと、地中海地域とチベット平原は大きな四季サイクルの変動を経験している。オリーブの大不作によるオリーブ油の高騰はここから来ている。レポートの著者らは更に、気候変動緩和努力なく、これらのトレンドが続けば、2100年までに冬は2か月に縮小、春や秋も短くなる一方で、夏が大幅に長くなると予測した。当然これらの影響は、気温変化に敏感な動植物に影響を与えることになる。生物活動周期の変化は生態学的条件を破綻させることで、動物と食料源の間のミスマッチをもたらしかねない。とりわけ農業への影響は大きく、季節外れの暖かい日や降雪は作物の発芽にダメージを与える。また、季節の変化は、アレルギー花粉にさらされる期間の延長や病気を媒介する蚊の北上など、人間の健康にとっても問題をもたらすことになる。さらに季節のシフトは、熱波や山火事、最近テキサスで観察されたような寒波などの極端な気象事象をもたらしかねないと懸念されてるのだ。このような四季の期間の変化の中で、これをポジティブに考えると、稲の生育可能期間そのものが長くなるということになる。春が早いということは、田植えも早くできる。そして、冬の訪れが遅いということは、秋遅くまで稲の栽培期間が広がる。つまりは、稲の生育可能期間が長くなる。これをポジティブにできる稲作技術を、ローコストで、簡便にできる方法はないかということで、再生2期作への研究を始めたということである。地球温暖化に耐えるのではなく、利用する技術ということになる。
再生2期作というのは、分かりやすくいうと、夏にいったんコメの収穫をした株を生かして、二回目に出てくる穂からもコメの収穫を得るための技術で、関西で言われるいわゆる「ひこばえ」からコメを収穫していく技術である。収穫後に新たに代掻きをして水をはって、新たに苗を作り、田植えをして2回目収穫といういわゆる二毛作は、沖縄などの亜熱帯の気候帯でないと、コストに見合う満足な収穫を得ることはできない。しかし、この切り株からの再生の穂からの収穫という技術は、現在の気温でも、関東以西の栽培では経済的な合理性のある技術として高い可能性があるということだ。
課題としては、①一回目の収穫時にいかに高刈りをして、稲そのものに光合成能力を残せるか、②秋の生育温度を確保するために、春の田植えをどの程度前倒しできるか。③二番果の収穫の歩留まりを上げるために、コメ粒がこぼれにくい汎用型コンバインを導入できるか、④二番果のための追肥としては、一番果の収穫2週間程度前がベストということだが、これは圃場に入ることなく施肥を可能にするドローンの活用等のスマート農業の取り組みが必要になる、⑤生育期間を通して用水が確保できること(たいていの水路は稲の収穫が終わると水が来なくなる) 等の課題がある。
様々な課題はあるも、中野先生の実験と九州での実証実験では、4月植えの稲の二番果は、平均一番果の50%程度獲れているようなので、単位面積あたり、150%の収量を得られることが期待できる。ましてや、今後地球温暖化が進んでしまった場合には、さらに関東以北にも対応可能地域が広がることになり、これは水田や生産者の減少が叫ばれる中で、主食であるコメの確保に重要な意味を持つことになると考える。
ただし2番果の品質的には「カメムシ」の集中的な被害に遭うリスクが大きいと予想されているので、農薬の使えない有機農業の場合は、基本は味噌や醤油などの加工原料用ということを前提に、かつ、秋のカメムシの被害が少ない地域から進めていきたいと考えている。
次号に続く