
根圏という「土が生きている生活圏」
みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.39
2025年5月 業務執行理事 南埜 幸信
オーガニックの理念である「土が生きている」という考え方は、まさしくこの根の表面から約5mmの範囲にある、いわゆる根圏といわれる特別な生命環境に現れている。天文学的な微生物がこの生活圏で生きた根と共生し、様々な相互共生(代謝・呼吸)により、お互いの生命を維持成長させていくという生命の本質の営みである。
この生活圏において、植物の根は自身の生命活動に必要な微生物を育て、その活動を促進させるために微生物のエサとなるような様々な物質を供給している。また、この微生物との共生関係は単なる微生物のエサというだけではなく、植物の免疫活性にも役立っている。
この根と根圏微生物との共生関係の一例として有名なのは、「VA菌根菌」である。この菌は、植物の根が必須養分であるリン「P」を吸収するうえで重要な役割を果たしている。ご存じの通り植物は水に溶けた栄養分しか吸収できない。実はこのリンは日本の土壌の代表である火山灰土壌は、特に吸着して離さない状態で多く存在することから、土壌には存在するが、植物が直接利用できない状態にある。この土に吸着しているリンを離し、植物が吸収できる水溶性に加工してくれる土壌微生物が、VA菌根菌なのだ。つまり、植物はこのVA菌根菌の活動を通し、必要な養分を得ることができるので、このエサとなるブドウ糖などを根から根圏に放出しているのだ。植物は土から一方的に養分を吸収するだけという過去の学説が間違いであったことが証明されたのだ。土は生きている。そして生きた根との共生関係で植物は育っていくということである。
近年は人間の腸内細菌の重要性が明らかになってきて、免疫力の高い健康を確保し、また美肌を維持していくために、「腸活」などという取り組みが脚光を浴びている。ご存じの通り、人間が食べ物から養分を吸収する最終のプロセスの場として、腸内にある柔毛を起点とした生活圏で活動する「腸内微生物」の存在や活動に注目が集まっている。まさしくこの根の近接周辺に根と共生する微生物が存在する「根圏」と類似していることに驚くのである。
次号に続く
