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食用油の国産化へのチャレンジ ~幸せの黄色いウェーブから良質な植物油を~

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.43

2025年6月 業務執行理事 南埜 幸信

皆さんは食用油の自給率はご存じですか?日本の食用油の自給率は非常に低く、約4%程度という恐ろしい現実だ。植物油の自給率は2%とさらに低い水準になる。これは、大豆や菜種などの主要な食用油の原料の多くを輸入に頼っているためだ。米ぬかを搾油した米油や、落花生油、椿油なども国産原料として存在するが、統計に上がるほどのまとまった量ではない。なぜ自給率がこれほどまでに低いのか。それは大豆や菜種などの主要な原料は、ほとんどが海外からの輸入に依存しているからなのだ。なかでも日本で最も消費される植物油である菜種油の原料となる菜種は国内生産量が非常に少なく、自給率はわずか0.01%程度。ゴマと同程度の水準だ。そしてもちろんこの食用油の自給率の低さは、日本の食料自給率全体を押し下げる要因の一つとなっている。つまり、植物油の輸入原料への依存を減らし国産原料の生産を増やすことが、食用油の自給率向上に向けた課題となっている。

そこで最近植物油として注目度が上がってきているのが、ひまわりオイル。ヨーロッパなどではオリーブの不作によるオリーブオイルの高騰などの影響で、このひまわりオイルが、俄然注目されてきている。その背景にはひまわりの品種改良も進み、油の含有率が従来の約30%の水準から、最大45%程度まで向上してきて、しかもその油の成分がオメガ9系の品質でオレイン酸が主成分となり、ビタミンEの含量の飛躍的向上(オリーブオイルの約10倍)が達成されたことが、普及の後押しをしたことは間違いないと考える。ここまでくると熱耐性の高い食用油としての利用はもちろん、化粧品やサプリメントとしての利用も視野に入ってくる。観賞用としてのひまわりから、油脂原料としてのひまわり栽培。これに早くから注目してのが、北海道の北竜町と香川県のまんのう町になる。ここで有機農業の大サポーターである私が注目したのは、もちろん北海道の大面積での栽培という取り組みは貴重だが、1年1作の北海道で栽培していたのでは単価が合わないだろうということで、ひまわりの緑肥効果(畑で育てる植物堆肥)を主体にした関東以西の有機野菜産地での輪作へのひまわり栽培の導入である。

特に露地栽培主体の有機の生産者は野菜と野菜の間に、土づくりとして、土づくり作物として、緑肥を導入する技術が普及している。野菜ばかりをつくり続けていると、やはり土の養分に偏りが出たり、各植物特有の病害虫が土中に広がったりするのを避けるために畑が空く夏場や冬場に、いわゆる土づくり作物として緑肥を必ず入れる。これは夏場だとソルゴやデントコーンなど、冬場だとライムギやエン麦、マメ科のヘアリーベッチ、マリーゴールドなど、いわゆる実をとるための栽培ではなく、土壌の残留肥料を吸う力の強いクリーニングクロップといわれる植物になる。これらの植物を見ていて、ひまわりと連想した時に、これは緑肥として活用しながらも、従来ある収穫機械での栽培体系が応用できれば、クリーニングクロップ活用で土づくりをしながらも、多少でもそこでも売り上げ収益になる輪作体系ができるのではないかという仮説が浮上してきた。そこで今回、先進地の一つの、香川県のまんのう町に、農林水産省からの紹介もいだき、栽培に取り組みたいという、佐賀県のみやき町のオーガニックビレッジの事務局と、千葉県の穀物専門の農業生産法人と、茨城県の常陸大宮市のオーガニックビレッジの関係者で、現地まんのう町を視察してきた。

まんのう町のひまわり栽培は、今から約35年前にコメ余りの解決策として政府が始めた減反政策のところからスタートしている。大豆でという取り組みも選択肢としてあったが、町おこしとして、景観作物としての効果。そして、小豆島のオリーブオイルの町おこしを参考にしながら、関係人口の増加も狙い、ひまわりの導入に取り組んだということだ。そして、北海道の大産地の北竜町とも連携して、当時ホクレンが油用の品種を供給していた紹介も受け、油脂用のひまわりの栽培を開始し、同時に町のなかに、低温圧搾法で油を搾る工場も建設し、町の特産として油の出荷にも取り組み、また油の搾りかすは、町内の畜産農家に餌として供給し、「ひまわり牛」というブランド化も進めている。まさに町あげてのひまわりへの取り組みである。これを町では、「黄色の魔法がかかる町 まんのう」をキャッチフレーズに展開してきている。毎年7月の上旬には開花の最盛期を迎えるにあたって、ひまわり祭りを開催し好評を得ている。

現在まんのう町の取り組みは有機栽培ではないが、現状設計投入している窒素肥料レベルは野菜に比べてかなり低く、有機肥料でも十分達成できるレベルにあり、かつ、病害虫はほとんど見当たらない。むしろ一番の害は「鳥の食害」という内容である。しかも、播種から2か月で開花となり、3か月で子実が収穫でき、しかもゴマと違って、粒も大きいので、汎用コンバインがあれば、収穫から乾燥調製まで、穀物の生産者が現有している機械での一貫作業体系ができそうな内容と判断できる。

画像提供:まんのう町

一か所の産地でというのではなく、全国の露地での有機農家に、緑肥としての有機ひまわり栽培に取り組んでもらい、それをまんのう町の低温圧搾工場での委託作業でひまわりオイルを搾油していただき、それを国産の有機の植物油を求める消費者のもとに届ける。この事業の立ち上げに、大いなる可能性を感じた視察であった。加えて、今回視察で同行いただいた、(株)千葉穀物さんでは、今年油脂用ひまわりとして注目されている新品種の「春りん蔵(P63HE60)」の播種を予定している。この品種は特にリン酸吸収が促進される性質を強く持っていることがわかっている。ひまわりは、アーバスキュラー菌根菌と共生し、根の吸収域を広げ、リン酸を効率的に取り込むことができ、その結果ひまわりの根には、他の植物と比べて高いリン酸吸収能力があり、後作物のリン酸吸収を助ける効果も期待できるといわれている。リン酸吸収係数が高く、リン酸が有効化しにくいといわれる火山灰土壌の割合が大きい日本の農地にあって、リン酸をどう効かせるかというのが、特に有機農業でも大きな課題となっている。その意味で、輪作でのひまわりの導入は、有機農業のなかで、さらなる地力の向上に資する緑肥効果を発揮するのではと期待している。

次号に続く

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