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日本有数な漁港と大野菜産地の協業の可能性

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.48

2025年7月 業務執行理事 南埜 幸信

先日、日本でも有数な巨大漁港を運営する、銚子市の漁業協同組合に初めてお伺いして意見交換をさせていただいた。きっかけは、私の知り合いが、銚子市の商工会議所にいて、その彼とほぼ1年ぶりに会ったら、一枚の写真を見せられたことである。銚子漁協で、海藻栽培の取り組みが始まったということで、昆布を収穫している写真であった。
従来は、銚子のような大きな漁港では、稼ぎになる花形な魚が沢山水揚げされることから、派手さが無い海藻の養殖など、見向きもされなかったところであるが、銚子の沖合に生まれた洋上風力発電の建築について、環境アセスメントの観点から、風車の下の土台部分の藻場の再生が義務付けられていることから、海藻の養生技術を取得し始め、これならと、漁港の一部エリアで、昆布とワカメを栽培してみようということになったのである。 また、昨今は、海の水温の変化や黒潮蛇行などの潮流の変化、そして、利根川から運び込まれる川の水の変化により、サンマが全く獲れなくなったり、イワシは20~30年周期で漁獲量の周期的変化があるということで、漁協としての売り上げ額の変動が激しくなったことで、何か一定の安定収入を模索する必要性があるということが課題になった等があったようだ。そして、海藻の養殖を試しにやってみると、銚子周辺は、海藻の養殖に適した環境に恵まれていることが分かったということである。

近年東京湾を含め、房総半島の周辺は、さきに述べた海の環境の急激な変化により、海の生態系に大きな変化が起きていることは間違いない。休日に東京湾で海釣りを楽しんでいる趣味の方々に聞いても、魚が獲れなくなったという嘆きである。この原因について、千葉県の館山市にラボがある、東京海洋大学の松本先生に話を伺ったら、まずは東京湾周辺の海藻が消滅するいわゆる磯焼け現象が顕著に増えているということである。一部は藻場が消え、サンゴ礁が見え始めているとも。
この磯焼けの原因として大きいのが、いわゆる海水温の上昇により、海藻を食べる海中生物の異常繁殖があるという。つまり、冬場は水温が下がるので冬眠などの状況であった海の海藻ギャングたちが、冬も寝ないで海藻を食い荒らすということが大きく影響しているということ。そしてもう一つが川から海に流入する水の、水質の変化にも原因があるという。これは、海洋大学の研究費としての範囲を超えるので、現在のところは調査ができていないということであるが、以前書いた東京大学の山室先生の書籍のとおり、海藻も植物であるので、水田で使う除草剤が、そのまま川を経由して、海に流れ込み、それが磯焼けを起こしているということは十分にあるのではないかと考えている。水田を有機にして、除草剤を使用しないことは、海の環境を改善し漁獲量を上げていく大きな貢献ができるのではと考えているところでもある。

また話を銚子漁協に戻すが、銚子周辺の海域が、昆布やワカメの生育に適した環境にあるとしたら、今後、銚子漁協としても、海のブルーカーボンの取組として、カーボンクレジットの獲得や、急激に変化する漁獲量収入に対応して経営を安定化させるために、改めてこの海藻養殖を基軸に、生産から加工販売を戦略的に進めていけるチーム編成をしたいというのが、今回私にあった相談の最大ポイントである。

まずは私としては、昆布やワカメというのは、生育された海域名が何年もかけて評価を得た、いわゆる地域ブランドの確立が大事な戦略であるが、魚では有名な銚子ブランドがあっても、海藻のブランドには直ぐにはならないであろうということから、むしろ、最近始まった海藻の有機JAS認証に取り組むことを提案した。海藻の有機という分野は始まったばかりで、一斉に横一列。取り組みが遅れたというハンデは全くないと考えて良い。ぜひということで、この検討も始めていくこととした。さらに大きいのが、この銚子地域は、温暖な気候を生かして、キャベツと大根を中心とした、大野菜産地である。政府の指定産地にもなっていて、銚子農協は、千葉県の中でも唯一無二な絶対的な力のある農協である。この地域の中で海藻の栽培が進めば、ワカメの加工過程では約半分の廃棄がでているくらいに、収穫した海藻の約50%が廃棄されているものが、地元の農業生産者にとっては、海の資源の堆肥化というとてつもない宝を、地元の海から供給していける道が開ける。加えて、今年からまた、銚子漁協ではイワシの豊漁が見え始めていることから、魚の加工で出てくる廃棄物を海藻に加えて堆肥化して農地にという、土にとっては完全栄養食のような堆肥を供給することも夢ではなくなる。それがうまくいけば、漁協と農協の協業により、持続的な有機農業の推進モデルが、この銚子から日本全国に、さらには全世界発信できるかもしれない。

私が夢に見ている、里海と里山の持続的な資源で有機農業をというモデルを、ぜひ地元の銚子からつくりあげたいと。そんな話題で銚子漁協と銚子商工会議所のメンバーで大盛り上がりした。そんな会議ができた。

次号に続く

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