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地力窒素とは

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.67

2025年12月 業務執行理事 南埜 幸信

地力窒素とは、土壌中の有機物が微生物の働きによって分解され、作物に吸収可能な形になった窒素のことだ。化学肥料のように即効性があるわけではないが、土壌からじわじわと供給されるため、作物の生育に欠かせない。地力窒素量を把握することは、作物の生育予測や適正な施肥設計を行う上で重要である。
この地力窒素は、主に堆肥や作物残渣、落ち葉などの土壌有機物が微生物に分解されることで生成される。つまり、有機農業で土づくりとして経年的に主に使用していく堆肥と密接に関連のあるところである。そしてその窒素供給の速さについては、有機物の分解に土壌微生物などが関わることであり、土壌の温度、水分、種類、pHなどによって分解速度が変わり、一概に分解日数を算出することはできない。また、堆肥や有機肥料の内容や熟度によっても異なる。一般的にはその分解には数十日以上かかるのというのが基本的な考え方になる。
役割としては、肥料として与えられる無機態窒素だけでなく、土壌自体から供給される窒素源となり、水稲では生育に寄与している吸収窒素の約7割をこの地力窒素占めるとも言われている。
そもそも作物への窒素供給源は、肥料・施用有機物・地力窒素の3つがそのほとんどを占めるといわれている。特に水稲ではその7割をこの地力窒素が占めているということでは、水稲への供給源としては、大きな役割を占めている。従って、この地力窒素を測定することで、化学肥料を減らしたり、有機物の施用量を調整したりすることができ、窒素過多を防ぐことができる。また、有機農業で主軸の堆肥の投入によって地力窒素を増やすことは、土壌の肥沃度を長期的に高めることにつながることになる。
この地力窒素発現の重要なメカニズムである土壌の有機態窒素の無機化(植物が吸収しやすい無機態への転換) は、土壌中の微生物の働きによってなされる。従って、地力窒素の発現量は、つまり、微生物の活動しやすい栽培条件があるかどうかにより異なる。また、窒素の無機化量については、土壌中の有機物含量(腐植含量)が大きく影響する。つまり堆肥などの有機物の蓄積の結果としての腐植の多い土ほど、植物への可給態窒素の量も増大する。
この地力窒素の発現は、微生物が主役の分解過程を経るので、①地温、②土壌水分、③土壌中の酸素、④土壌の種類によって異なってくるので、一年中安定した供給ということにはならないことに注意が必要である。なぜなら植物によって窒素の要求度は、その生育ステージによって大きく異なるからである。それを踏まえた作物の選定と堆肥等の熟度と施用時期のベストマッチが農業技術としては重要である。
水稲の地力窒素のことでもうひとつ重要な観点は、収穫後の稲ワラの腐植形成資源としての評価である。稲わらは通常10アールあたり500~600㎏発生し、これを全量土壌中に鋤きこむことによって、水田の腐植含量が維持でき、堆肥施用と同様の効果を得ているところも多い。しかし特に北日本の水田では、稲ワラ施用により水稲生育に障害を与えているケースもみられる。それは、寒地では稲ワラは早い段階に鋤きこまないと、翌春には未分解有機物として土中に残るため、水稲の初期成育を抑制する。また、その土中での分解も遅いため、地力窒素の発現は、生育の中後期へとずれていく。こうしたことから、寒冷地の稚苗を用いた早期栽培では、初期成育の停滞を挽回できないことがある。加えて、細粒グライ土のような排水が悪い水田での稲ワラ鋤きこみでは根腐れを起こしやすい。さらには、冬季間圃場が乾いた状態で酸素が土壌に十分供給されるか否かによっても、未分解有機物の残留状況は異なってくる。
野菜・畑作物も、種類や作型によって異なるが、地力窒素の依存割合が高い。たとえば、地力窒素供給の低い土壌では収量が上がらないとされる大豆の吸収窒素の割合は、施肥窒素5%、地力窒素35~40%、根粒菌固定窒素50~60%とされ、施肥の窒素肥料の貢献度はごくわずかで、地力と共生土壌微生物の作用により生育しているといっても過言ではないくらいである。
次回はこの畑作について、引き続き地力窒素の重要性について、皆様と確認していきたい。

次号に続く

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