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オーガニック農業の理念「土は生きている」

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.38

2025年5月 業務執行理事 南埜 幸信

前号で「土は生きている」という考え方がオーガニックの基本理念であるとお伝えした。土は単なる岩石の粉ではなく過去のすべての生物の遺産(レガシー)のうえに、天文学的な生き物が密度高く集合した複雑系の生命システムとして機能を発揮することで、生きているかのような存在として生きている植物をそだてる能力のある実態ということになる。また、そこに植物の生きた根がはいることでさらに生きた根と生きた根に共生する根圏微生物との代謝(ある意味呼吸)が活発になり全体が生き物として生命系のシステムを動かし始めるという実態である。

引用: 土壌微生物の基礎知識 (西尾道徳著 農山漁村文化協会出版 1989年)

上記の図は、土の中にどのくらいの生き物が存在し、活動しているのかを模式的に表した図である。まさに、小動物から目に見えないどころか名前すらわからない天文学的な土壌微生物が生活をしている。そして、これらの生き物の総体としての土壌はまさしく全体として呼吸をしているのだ。まさしく生きているように。

そうしてこの生きている土に生きた植物の根が入ることで、生き物どおしの共生代謝活動が一層活発になり、土が育てられていくというメカニズムである。この生きた根と、共生関係になる根圏微生物(エンドファイト)が生きている土をさらに育てていくということが土づくりの本質である。

過去の農学では生きたものを生きた状態で代謝を調べるという手法そのものが科学では難しいということから、この根圏微生物の研究がほとんど進まず、植物の根は土壌養分を土から一方的に吸収するだけで生きた土壌との呼吸ではなく、水に溶けた土壌中の養分を吸収するだけという考え方が主流であった。つまり、土は単に根を支えるだけのベットでしかないと。この考え方がロックウール培地に水に溶かした化学肥料を与えることで植物を工場的に生産するという水耕栽培の原点になっていくのである。

しかし、近年はこれが改められ植物からは共生する根圏微生物を育てるためのエサとなる物質が供給され(光合成からの産物の還元)、それで育てられた微生物は土壌に存在する養分の元になるものを水溶化するなど、植物が吸収しやすいように加工して渡すというような人間の腸内微生物のような重要な働きをしている。そして、それらがすべて共生関係で生き物が育てられていく仕組みである。これが自然界の実態なのである。

つまりオーガニックとは、この土の中のすべての生き物が共生して生命を育てる仕組みを農業技術として開発・応用していく農業技術体系である。化学的に合成された農薬や肥料を継続的に使用しないなどの規制的な表現はものづくり側の本質ではないことをぜひご理解いただきたいのである。

次号に続く

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