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オーガニック農業の理念

みどりの食料システム戦略の実践レポート vol.36

2025年5月 業務執行理事 南埜 幸信

とある団体から、オーガニックについての基礎講座の一部の授業を受け持ってほしいと頼まれ、改めて過去のオーガニックの理解促進のために何回かの機会で話をさせていただいたことを見直し、作業を進めているうちに改めて自身の頭が整理できたところでこの原稿を書いている。

オーガニックにまつわる技術やインフラは、すごいスピードで進化しているが、理念は全くすべての活動の基本としてしっかりと根を生やしていると改めて感じている。これはオーガニック農業の理念であり、むしろあるべき本来の農業の理念でもある。

まずは農業の存在意義。まさしく農業という産業の存在意義である。これは現在では誰一人異論のない基本中の基本であると思う。だからこそオーガニックが農業の本流となるべきという議論の出発点でもある。そしてここに、農業は生命文明の核心としての存在価値があるのである。

農業は

①生命と健康を支える食べ物を提供する。②未来にわたり永続的に食べ物を提供する。③水や大気を浄化し、地球環境を保全する。④環境や生き物を学ぶ場を提供する。⑤美しく豊かな生活を送るための自然資材を提供する(オーガニックライフスタイル)→自然素材は工業では作れない。⑥美味しさを通じ、人生の喜びを提供する。

これが農業の本質である。

私は一時期とある量販店に入り、その系列の全国のお店で有機農産物の売り場を創ろうと動き始めたときまず一番最初にした仕事、まさしくそれは「有機」⇒「オーガニック」というマーケティングの一大改革刷新であった。有機と聞くと、化学的な肥料から有機肥料に転換を進めていくことが主な取り組みで、それさえすれば有機農業は進められるという誤解をこのまま放置していくことが、日本の有機農業にとって根源的なマイナスになると考えた私は、量販店での展開という課題をこのマーケティング改革の大いなるチャンスにしたかった。これに尽きる。

消費者に有機農業の意味を本質から理解いただくために、また日常の生活の場で有機農産物を前に家庭や職場でその議論が話題に出てほしいという意味で「有機」という用語を捨て、「オーガニック」に切り替えたのである。

有機農業の取り組みは、単に肥料を有機肥料に変えるという取り組みではない。それは、農業を農業本来のあり方から見直す取り組みという意味になる。オーガニックの語源の一つが「オリジン」。つまり農業の原点から農業のありようを見直し、技術の再構築に取り組むということである。

そうしてもう一つの取り組みはオーガニックのもうひとつの語源、「オーガナイズ」である。自然との調和、人と自然との調和、そして人と人との調和。これがオーガニックの原点なのだ。

つまり、オーガニックの基本理念とは、

  1. 自然尊重  自然を尊び、自然を敬い、自然界との調和を大切にする
  2. 自然規範  自然界のありようを手本にしていく
  3. 自然順応  自然界の意思に素直に従い順応していく

ということになる。

そのうえで取り組みの大前提として土は生きているという考え方である。もう少し丁寧にいうと、土は当然生き物ではないがあらゆる生命が密度高く集合した複雑系の生命システムとして機能を発揮することで、生きているかのような存在として生きている植物を育てる能力のある実態ということになる。

これは実際に自分で畑の土づくりに取り組んでいくと土が喜び、土が成長していく実態を自身の五感で感じることができるという農業の醍醐味である。人間として生を得た以上はすべての人にこの喜びは感じてほしいと願うところだ。これは農業者にならなくても体験できる。私なども家庭菜園程度の畑しかないが、十分この土の成長のスピードを実感できている。オーガニックで取り組むことが大前提ではあるが・・・。

そして、もうひとつの基本。オーガニックは農薬を使わない農業ではなく必要のない農業を目指すということになる。それは健全な土から生まれた植物は健全に育つという基本理念であり、病害虫の原因は病害虫が外から植物体を攻撃してくるから被害を受けるという外的要因ではなく植物体の中にその原因があるという考え方である。次号からは、この内容をさらに農業技術論として、深く掘り下げていきたいと思う。

次号に続く

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